ちょっとだけ不思議な昆虫の世界(3)

今回で2度目の引っ越しです。 さりげなく(Sally Genak)虫たちの不思議な世界を紹介しています。

【1545】
完全変態の虫たちは、多くの場合、成虫と幼虫で食べ物や移動手段、
生息場所などが異なり、当然その姿かたち(見た目)も異なります。
 ⇒なので、野外でそれぞれを別々に見つけたときには、
  独自に名前を覚えておかないといけません。
  覚えるべき種類が、さりげなく2倍になるのです。

今回は、幼虫と成虫の姿が対照的(ツルツルとトゲトゲ)なトホシテントウです。




まずは、幼虫から・・・・・

トホシテントウ幼虫(テントウムシ科)
SH-5915a
2017年9月22日 座頭石・青森


とりあえず、このトゲは外敵に対する物理的な防御手段になると思いますが、
テントウムシの場合は、不味成分を体内に持っているので、
野鳥類がテントウムシを(トゲがなくても!!)捕食しないようです。





トホシテントウ幼虫(テントウムシ科)
SG-3269a
2020年1月19日 渡良瀬遊水地・栃木

しかし、これだけ見事なトゲだと、近づくのも躊躇するほどの外観です。
背面全体に、本体が見えなくなるほど枝分かれした黒い棘で覆われており、
少なくとも見た目は怖ろしく、触ってみるには勇気がいります。
 ⇒しかし実際には、このトゲには有毒成分はなさそう【注】なので、
  見かけほど危険な虫ではありません。

【注】トホシテントウは肉食ではなく、幼虫と成虫共に、
   ウリ科のアマチャズルやカラスウリなどの葉を食べるのですが、
   それらは、微妙な有毒植物でもなさそうです。





こんなやりすぎ幼虫の親は、一体どんな姿なのでしょうか?

トホシテントウ(テントウムシ科)
SH-7247a
2017年6月26日 座頭石・青森

何だ!・・・・・・普通のテントウムシじゃないか!!!
 ⇒でも、このような赤と黒模様は、
  緑色の葉っぱにいると、非常に良く目立ちます。






トホシテントウ交尾中(テントウムシ科)
SK-4662a
2020年6月20日 座頭石・青森

このような派手な模様は、体内の不味成分に裏付けされた、典型的な警戒色だと思います。
詳細は、以下の過去記事をhご覧ください。

【虫たちの生き残り戦略⑥ 警戒色(目立つ色で危険を知らせる)】
   ↓   ↓   ↓




【1544】
ホシナカグロモクメシャチホコという見た目がさりげなく想像できるような、
そんな「名は体を表す?」名前の蛾がいます。
一方の幼虫も、なかなか侮れない「見た目と行動」が伴います。




まずは幼虫から・・・

ホシナカグロモクメシャチホコ幼虫(シャチホコガ科)
SG-2320a
2012年8月22日 十石峠・長野

前回のホタルガ幼虫とは違った意味で、どっちが頭だか分かりません。
体の後部を少し持ち上げて、長く伸びた触角のように見える突起を広げるので、
まるで、左側が頭のように見えます。
 ⇒実は、触角のように見える突起は、尾脚が特殊化したもので、
  この子は、お尻の方を持ち上げているのです。





ホシナカグロモクメシャチホコ幼虫(シャチホコガ科)
SG-2322a
2012年8月22日 十石峠・長野

同じ個体がお尻にある偽物の触角を閉じて、本物の頭部を少し持ち上げています。
 ⇒多分、名前の由来となったシャチホコのポーズなのでしょう。
  この状態でも、どちらが頭か分かりにくくなっています。





ホシナカグロモクメシャチホコ幼虫(シャチホコガ科)
SG-4061a
2011年7月25日 酸ヶ湯温泉・青森

近縁種のナカグロモクメシャチホコ幼虫とは見た目が明らかに異なるので、
現場で十分識別可能です。
 ⇒ただ成虫の写真同定はやや微妙ですが・・・





成虫(親)は・・・

ホシナカグロモクメシャチホコ(シャチホコガ科)
SK-0504a
2018年6月9日 城ヶ倉・青森

名前のとおり「白い翅のいたるところに星(ホシ)が散りばめられ、
中央部分に黒い太い帯(ナカグロ)があって、翅の先端付近には、
微妙に木目模様(モクメ)があるシャチホコガの仲間です。
 ⇒わずかに見えるオレンジ色も、なかなか良い味を出しています。

この模様は、もしかしたら食草であるシラカンバの白い幹に止まると、
保護色な効果があるようにも思えますが・・・





ホシナカグロモクメシャチホコ(シャチホコガ科)
SH-5285a
2016年7月6日 城ヶ倉・青森

近似種のナカグロモクメシャチホコは地色がややくすんだ白色で、
やや薄い黒色の横帯は本種より細く見えます。

 ⇒写真が一枚だけありました。

  ナカグロモクメシャチホコ(シャチホコガ科)
  SG-4367x
  2011年8月31日 城ヶ倉・青森

  個人的に初見のシャチホコガで、全体的に色彩がくすんだ灰色です。

【1543】
ホタルガという微妙な名前の蛾の仲間がいます。
このように、2種の虫の名前が前後に列記されている場合は、
後ろの名前が本来(?)の種となることがほとんどです。
 ⇒幼虫か成虫(蛾)のどちらかの見た目が蛍に似ているのでしょうか?
  それとも、本物の蛍のように、夜になると光るのでしょうか?




まずは、ホタルガの幼虫から・・・

ホタルガ幼虫(マダラガ科)
SG-2009a
2012年5月25日 東海村・茨城

幼虫はサカキやヒサカキの葉を食べる害虫とされています。
前回紹介したフクラスズメ幼虫のように、黄色と黒色の派手な模様です。
 ⇒不思議なのは、写真のように静止しているときには、
  どっちが頭なのか、ほとんど見分けが付きません。

頭と尻尾が通常と逆になるように見せて、捕食者の攻撃を、
急所でない部分に向けさせる種が知られています・・・(以下の過去記事)。
 ⇒ただ、前後の見分けがつかないようにするタイプは、
  比較的珍しいと思います。

【虫たちの生き残り戦略⑲ 捕食者を欺く(5) どっちへ逃げる】
   ↓   ↓   ↓





ホタルガ幼虫(マダラガ科)
SK-2037a
2019年5月12日 阿見・茨城

動いていれば、小さな黒い頭部が少し伸びるので、簡単に分かります。
 ⇒それにしても、このような黄色と黒色の模様は、
  危険を示す標識にも使われるように、よく目立ちます。

幼虫の体内には、不味成分か有毒成分が含まれているのでしょうか?
それとも、幼虫時代(?)のベイツ型擬態なのでしょうか?




こんな「蛍の影さえ見えなかった」幼虫の親は・・・

ホタルガ(マダラガ科)
SG-0950a
2010年7月11日 筑波山・茨城

どうやら、黒い体の後方に、よく目立つ真っ白なラインがあって、
遠くから見た場合にのみ(!)、有毒種のホタルに擬態しているようです。
 ⇒よく似た種に、シロシタホタルガが知られていますが、
  白いラインの位置が異なります。

  【虫たちの親子-51 シロシタホタルガ】
       ↓   ↓   ↓






ホタルガ(マダラガ科)
SK-8243a
2021年7月9日 矢立峠・秋田

本種に限らずマダラガ科の成虫は、体内に不味成分を保持しているので、
学習した野鳥類などの捕食者が食べることはありません。
 ⇒なので、ホタルとホタルガの場合は、擬態の対象となる種が、
  お互いに良く似ているという「ミュラー型擬態」の範疇になります。

  【虫たちの生き残り戦略⑦ ミュラー型擬態】
      ↓   ↓   ↓




【1542】
虫たちの名前には、所属する「科」について間違えやすい場合があります。
アゲハチョウ科のウスバシロチョウと、ヤガ科のフクラスズが有名です。



今回は、フクラスズメという蛾(!)の親子です。


まず、ド派手な幼虫から・・・・・

フクラスズメ幼虫(ヤガ科)
SK-8898a
2021年8月31日 座頭石・青森

林道を歩いていると、道端のイラクサやカラムシなどの葉っぱで、
よく見かける鮮やかな黄色と黒色の目立つ幼虫です。
 ⇒この色彩パターンは典型的な警戒色とされますが、本種幼虫は、
  おそらく体内に強力な有毒成分は保持しないようです【注】
  また、ドクガ類に見られるような毒針毛は持っていません。
  だから、幼虫に触っても全く問題ありません。

ただ、食草のイラクサには、触らない方が良いと思います。




フクラスズメ幼虫(ヤガ科)
SK-1315a
2018年8月17日 西蔵王・山形

フクラスズメ幼虫にかぎらず、写真を撮ろうとして、不意に近づくと、
体を反り返らせたり、頭部を左右に振ったりして威嚇する幼虫がいます。
 ⇒もっとしつこく、小枝などで軽く触ってみると、
  口から大量の液を吐き戻すこともあります。

これは明らかに、捕食者に対する「威嚇・警告!!」だと思います。




フクラスズメ幼虫(ヤガ科)
SP-2900a
2022年9月14日 編笠林道・青森

その一方で、あまり黄色が強調されず、黒色が目立つ色彩変異もあります。
 ⇒これが何を意味するのかは、現時点では不明ですが、
  もしかすると「微妙な警戒色」に関係があるのかもしれません【注】





では、この鮮やかな警戒色の幼虫の親は、どんな色なのでしょうか?

フクラスズメ(ヤガ科)
SK-1598a
2018年10月18日 浅瀬石ダム・青森

実は、どこにでもいるような、茶色ベースの目立たない蛾だったです。
もちろん、この姿かたちは、スズメガのイメージではありません。
 ⇒白状すると発見時には、上の写真だけで、
  フクラスズメと同定するできませんでした。






同定できたのは、幸運にも、すぐに下の写真が撮れたからです。

フクラスズメ(ヤガ科)
SK-1604a
2018年10月18日 浅瀬石ダム・青森

別アングルの写真を撮るため近づいた瞬間、わずかに翅を開いたのです。
 ⇒後翅の表面は、何とも言えない青白い模様だったのです。






フクラスズメ(ヤガ科)
SG-2607a
2011年9月29日 城ヶ倉・青森

上の写真を撮る7年前に、城ヶ倉でこんな写真を撮っていたのです。
 ⇒もちろんこのときにも、フクラスズメとは同定できず、
  カトカラの仲間だと思っていました。




【注】過去記事で何度も紹介していますが、イラクサの仲間は、
   アブラナ科、セリ科やユリ科などに代表されるような、
   いわゆる「微妙な有毒植物」に分類されると思います。
   強力な毒性を持つガガイモ(キョウチクトウ科)とは違って、
   アブラナ科やユリ科の植物を食べる虫たちの中にも、
   微妙に目立つ(?)警戒色を持つ種がいます。
   そんな虫たちは、捕食者が好んで(!)食べることはないようです。


   【警戒色の虫たちと有毒植物① 葉っぱの味は?】 
     ↓   ↓   ↓

   【警戒色の虫たちと有毒植物② 虫たちのも好き嫌い?】 
     ↓   ↓   ↓
   【警戒色の虫たちと有毒植物③ アブラナ科】 
     ↓   ↓   ↓
   【警戒色の虫たちと有毒植物④ イラクサ科】 
     ↓   ↓   ↓
   【警戒色の虫たちと有毒植物⑤ セリ科】 
     ↓   ↓   ↓



【1541】
虫たちの親子シリーズ、もう少し続けます。

完全変態をする虫たちは、成虫と幼虫で全く異なる姿かたちをしています。
極論すれば、それ以外にも生息場所、食べ物、移動手段などが違って、
通常の分類方法からすると、幼虫と成虫は全くの別種(?)なのです。
 ⇒だから野外で、実際に親子を別々に見つけたときには、
  独自に名前を覚えていないと、その場で同定できません。
  覚えるべき種類が、単純に2倍になるのです。


今回は、モモスズメという蛾(!)の親子です。




まず、モモスズメ幼虫から・・・・・

モモスズメ幼虫(スズメガ科)
SH-2105a
2011年9月21日 だんぶり池・青森

これは、何時でも、何処でも、よく見かける典型的なスズメガの幼虫です。
この静止姿勢は、前後左右どこから撮っても、絵(写真?)になります。





モモスズメ幼虫(スズメガ科)
SG-1953a
2011年9月15日 白岩森林公園・青森

幼虫は、6~10月の長期間見られるので、おそらく年2化のようです。
体色は緑色または黄褐色で、全身にざらざら感があるのが特徴です。
 ⇒幼虫は、主にバラ科(サクラ、ウメ、モモ、リンゴ)の葉を食べ、
  繭を形成せずに土中で蛹化します。





モモスズメという名前から、親はピンク色系の蛾を想像しますが・・・

モモスズメ(スズメガ科)
SK-1231a
2022年7月30日 矢立峠・秋田

予想が見事に外れて、普通の目立たないスズメガでした。
モモスズメという名前は、成虫の後翅が桃色を帯びることに由来します。
ただ、幼虫が桃の葉を食べることに由来するという説もあるようです。





モモスズメ(スズメガ科)
SP-2545a
2018年8月13日 道の駅みわ・茨城

成虫は、5~8月に現れ、体色は褐色~暗褐色で、前翅に波状模様と、
黒い斑紋が1対あり、外縁はのこぎり歯状に裂けています。
後翅は桃色を帯び、黒い斑紋が2対あります。






モモスズメ交尾中(スズメガ科)
SG-0440a
2010年6月25日 洞爺湖・北海道

この交尾シーンを最初に見つけたときには、一瞬「何だこれは!?」と、
思ったほど、インパクトのある交尾姿勢です【注】
 ⇒この正方形は、普通の虫にはあり得ない輪郭なので、
  おそらくこの交尾姿勢は、無生物に見せることで、
  天敵に対する防御効果があるのかもしれません。



【注】このブログでは、独自に「交尾擬態」と呼んでいます。
   以下の過去記事で、実例をご覧ください。

   【虫たちも演技する? 交尾擬態!】 
          ↓   ↓   ↓ 

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