ちょっとだけ不思議な昆虫の世界(3)

今回で2度目の引っ越しです。 さりげなく(Sally Genak)虫たちの不思議な世界を紹介しています。

2017年02月


【虫たちの生き残り戦略③】  保護色(隠蔽色)


多くの虫たちは、自分の体の色や模様を背景に似せて、
捕食者から目立たないようにすることがあります。

何かの下に隠れているのではなく、捕食者から見える場所にいるときでも、
できるだけ見つかりにくいような色や模様の虫たちです。

 ⇒そのような体色のことを、保護色(隠蔽色)と言いますが、
  もちろん、静止する背景が重要な選択条件になります。






有名な保護色の写真は、あとで示しますが、まずは、こんな実例をご覧ください。




ハガタアオヨトウ(ヤガ科)
イメージ 1
2011年7月19日 登別温泉・北海道

この子のうす茶色と灰色が入り混じった前翅には、
ところどころに、黄緑色の不規則な模様があって、
苔の生えた樹皮のように見えます。

写真では分かりにくいのですが、「ここまで似せなくても!」と思うほどの迫力です。

 ⇒もし、こんな蛾が、薄暗い森の大木に静止していても、
  視覚で獲物を探す捕食者(特に野鳥類)には、
  決して発見されることはないでしょう。
  もちろん、私のように必死に虫を探す人間にも!!


でも残念がら、写真の子は静止する場所を間違えたため、
私ごときに、写真を撮られてしまったのです。

虫たちの体色が、目立つのか・目立たないのかは、
当然ですが、彼らが静止する背景によるのです。






もう一つの例を示します。



アオスジアオリンガ(コブガ科)
イメージ 2
2011年7月9日 知床・北海道

多くの蛾の仲間(成虫!)は、夜行性なので、
あまり翅全体が緑色の種類は多くありません。

例外と言っても良さそうなアオスジアオリンガは、
いわゆる保護色とされる「うす緑色」をしています。

でも、写真の子の背景選択は、微妙に間違っていて、
静止する葉っぱが、うす緑色の若葉(?)ではなかったのです。

 ⇒もちろん、この書き方は正確ではなく、
  虫たちが自分の体色を知っているとは思えないので、
  静止する背景を、おそらく自分で選ぶことはできないのですが・・・






・・・ところが!!



アオスジアオリンガ(コブガ科)
イメージ 3
2015年6月11日 酸ヶ湯温泉・青森

こちらの写真の子は、まさに背景のダケカンバの若葉と、
完全に同化するほどの「保護色」でした。
しかも、やや赤っぽく見える前脚が、葉柄の色にさりげなく似てるし・・・

 ⇒ダケカンバにいるカメムシ類を必死に探しているときに、
  「何だ、こりゃ~!!」
  と言う感じで、全く偶然に見つけたのです。

おそらく、ツノカメを探しながらでなければ、発見することはなかったと思います。







このように、同じ緑色でも、背景の色に完全に一致している例は、
実は、あまり頻繁に見られるものではありません。

 ⇒というか、人間には見つからないのかもしれませんが・・・


私が撮った緑色の虫の写真は、もう1枚だけしかありません。



キリギリスの仲間の幼虫(キリギリス科)
イメージ 4
2011年6月26日 白岩森林公園・青森

この子も、自分の体色と周囲の葉っぱの色が、完全に一致しています。

 ⇒中央の葉っぱに、多分ツユムシ類の幼虫がいます。
  私は、さりげなく見逃していて、
  しばらくしてから、「あれっ!? いたの?」
  という感じで撮影したものです。






一方、緑色の葉っぱ以外の場所にいる虫たちは、
背景の模様が複雑になっている分、結構沢山見られます。

今回の写真は、余計なお世話かもしれませんが、該当する虫たちを赤丸で囲みました。





キエグリシャチホコ(シャチホコガ科)
イメージ 5
2013年10月10日 十和田湖・青森

右上の赤丸の中に、シャチホコガの成虫がいます。

うす茶色の虫たちも、周囲に枯れ葉がある環境では、
緑色の葉っぱの上にいても、このように、背景に完全に溶け込んでしまいます。

 ⇒写真は、おそらくキエグリシャチホコだと思いますが、
  たまたま、私が虫を探して枝を引き寄せたときに、
  飛んで逃げた個体を、目で追いながら着地点を確認して、
  その付近を必死に探して、ようやく見つけたものです。


このように、運が良ければ、写真撮影できるのですが、
普通に探していたのでは、絶対に見つからなかったと思います。








エゾシロシタバ(ヤガ科)
イメージ 6
2013年9月4日 志賀坊森林公園・青森

これはエゾシロシタバという蛾ですが、前翅の表面は、
少し苔の生えた樹皮そっくりです。

中央の赤丸の中に、蛾の成虫がいますが、
この子も、飛んで逃げた先を、目で追って探したものです。








ニイニイゼミ(セミ科)
イメージ 7
2011年8月5日 白岩森林公園・青

樹木の幹の色と模様まで似せているニイニイゼミは、
こんな雰囲気なので、普通は見つけることができません。

中央の赤丸の中に、セミの成虫がいるのがお分かりでしょうか?

 ⇒この子が樹木の高い位置にいて、
  遠目にしか見ることができなかったら、
  とっくに探すのをあきらめていたと思います。



しかし、ニイニイゼミやエゾシロシタバが、緑色の葉っぱの上にいれば、
最初の写真のハガタアオヨトウのように、簡単に見つかってしまいます。

セミや蛾の輪郭が、くっきりと浮かび上がってしまうからです。


これが、保護色の限界であり、致命的な欠陥でもあるのです。








もうひとつ興味深い例を示します。

まずは、以下の写真をご覧ください




イシサワオニグモ(コガネグモ科)
イメージ 8
2016年9月17日 弘前市・青森

赤色とうす黄色の縞模様は、かなりよく目立つので、
次回紹介する予定の「警戒色」の典型だと思います。

 ⇒ただ、イシサワオニグモは、有毒ではありませんし、
  強力な武器を持っているわけでもありません。
  別の機会に紹介予定の「ベイツ型擬態」でもなさそうです。


そして、カメラのファインダーを覗きながら、
ほんの一歩だけ被写体に近づきました。

そのとき、突然このクモが、視界から消えてしまったのです。






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イシサワオニグモ(コガネグモ科)
イメージ 9
2016年9月17日 弘前市・青森

何ということでしょうか?

この鮮やかな模様は、ヨモギの花穂の中に入ると、
実に見事な「保護色」として機能していたのです。

 ⇒同じような例が、警戒色のアカスジカメムシにも見られます。
  この子は、赤と黒の縞模様の典型的な警戒色なのですが、
  晩秋の枯れたセリ科の種子の上に静止していると、
  全く目立たない保護色になってしまうのです。


もちろん、イシサワオニグモが、
必ずヨモギの花穂に巣を張るとは限らないので、
たまたま、このような結果になったのかもしれません。

 ⇒もしかしたら、この子の保護色的な色彩は、
  次回紹介予定の「分断色」の範疇かもしれませんが・・・








ところで、保護色の虫たちは、本当に背景を選ぶのでしょうか?
また実際に、どの程度の防御効果があるのでしょうか?

昔から、保護色の防御効果を知るために、様々な実験が行なわれています。

有名な例では、イギリスの工業黒化のオオシモフリエダシャクの実験があります。

通常の白っぽい個体と、ススで汚れたような黒っぽい個体を、
それぞれ、白い色紙と黒い色紙の上に放すと、
細かいデータは覚えていませんが、僅かの差で、
自分の体色に合った背景を選んでいるという実験結果でした。

 ⇒もちろん、保護色の効果があるからこそ、
  工業地帯では黒っぽい個体が多くなったのです。


しかし、虫たちの背景選択に関する実験結果は、
色々な条件が複雑に絡み合っている可能性もあり、
予想される(?)結果にならないことが多いのです。

例えば、茶色と緑色のバッタが、それぞれ自分の体色に応じて、
生きている草か、枯れた草を選ぶかを実験的に確かめるような場合、
どんな刺激を根拠にするのかを、確認することから始めまなければなりません。

 ⇒つまり、色を見るという視覚刺激以外の条件、
  例えば、緑葉の匂い、周辺の温度や湿度、足ざわり感触、
  草が立っているか寝ているかなどの他に、
  試験するバッタの空腹度や生育段階なども、
  あらかじめ考慮しておかなければならないのです。



一方、実際の防御効果に関しても、多くの実験結果を見ると、
ほんの少しだけ「生存率が上がるかな?」というレベルなのです。

 ⇒もちろん、保護色の有効性が、ほんの少ししかないのであれば、
  虫たちが、自分の体色を知っていて、自らの体色に有利な背景の色を、
  本当にに選んでいるのかどうかについては、もっと微妙だと思います。


このように、研究者がかなり苦労して、ある行動の防御効果を測定し、
それが僅か数%生き残る確率が増えただけという結果しか得られなかったとしても、
おそらくその形質は、進化していくはずです。



次回は、保護色の範疇に入りますが、分断色の虫たちです。








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 この記事は、旧ブログで数回のシリーズに分けて書いた内容を、
 分かりやすく、掲載写真と文体を変えて追加・修正したものです。
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【虫たちの生き残り戦略②】  隠れている


多くの虫たちは、昼間の明るいうちは、獲物を探し回る捕食者に見つからないように、
何かの下に隠れているという方法をとります。

捕食者に攻撃を受けないための、最もシンプルな選択だと思います。


当然ですが、虫の写真を撮ろうとして林道を歩いていても、
落ち葉や石の下に隠れている虫たちを、決して見つけることはできません。

ときどき、林道わきにある石ころをひっくり返してみると、ようやく、
じっとしているゴミムシやハサミムシなどを見つけることが出来ます。

また、樹皮の割れ目をそっと剥いでみると、
その中に、ヒラタカメムシやクチキムシの仲間がいますし、
柔らかい朽木を崩すと、ゴミムシやハネカクシなどの甲虫類が見つかります。






あまり写真はないのですが、例えば、こんな感じです。



ヤマトゴキブリ(ゴキブリ科)
イメージ 2
2014年2月26日 ひたちなか市・茨城

樹皮が大きくはがれている桜の老木があると、
その隙間には、必ずと言って良いほど、
何らかの虫たちが隠れています。

この子は、ヤマトゴキブリの雌成虫だと思います。








ルリヒラタムシ(ヒラタムシ科)
イメージ 1
2013年7月14日 蔦温泉・青森

ルリヒラタムシはこんな美麗種なのに、朽木の中に隠れていました。
名前のとおり、体が平たいので、隙間に入り込みやすいのでしょう。

 ⇒この子は、人間が探すのが難しいだけかもしれませんが、
  かなりの希少種であることは間違いないようです。
  そのため、日本各地で「絶滅危惧種」に指定されています。








ヒメホシカメムシ(オオホシカメムシ科)
イメージ 3
2006年2月3日 徳島市・徳島

人間が作った植木鉢やブルーシートの下にも、虫たちは隠れています。
そっと捲ってみると、ヒメホシカメムシの集団がいました。
 
このように、何かの下に隠れていれば、視覚で獲物を探す捕食者は、
おそらく見つけることはできないはずです。

ただし、この素晴らしい防御手段にも、残念ながら大きな欠点があります。

 ⇒落ち葉や樹木の中に完全に隠れていても、
  ノネズミや、キツツキなどの特殊化した捕食者には、
  いとも簡単に見つかってしまうのです。
  当然、同じような環境に住む、小さな捕食者も沢山います。


次回以降も、様々な防御方法を紹介していきますが、そのどれをとっても、
全ての捕食者から完全に逃れる防御方法はありません。






ここからが本題(?)で、隠れるということに特化した虫たちです。


よく知られているのは、クロシジミの幼虫で、クロオオアリの巣の中にいます。
また、シロスジベッコウハナアブの仲間の幼虫は、スズメバチの巣の中で育ちます。

当然ハチやアリの巣の中は、普通の捕食者が絶対に入り込めない場所で、
しかも、食べ物はすぐそばに食べきれないほどあるのです。




今回は、かなり不思議な生活史を持ったツチハンミョウの仲間を紹介します。


マルクビツチハンミョウ(ツチハンミョウ科)
イメージ 9
2015年3月31日 御前山・茨城

ちょっとだけ貴重なマルクビツチハンミョウの交尾写真です。
(・・・娘が偶然見つけて撮ったものですが!!)

このような特異な姿かたちのツチハンミョウの仲間は、
昔から、カンタリジンを体内に持つ有毒昆虫として知られています。

 ⇒当然のこととして、捕食者に食われることはなく、
  良く目立つ警戒色(金属光沢)の虫で、
  ベイツ型擬態のモデルにもなっている場合もあります。

しかし、幼虫はハナバチ類の巣の中にいるのです。

 【千載一遇!? マルクビツチハンミョウの交尾】
  ↓   ↓   ↓
     http://kamemusi.no-mania.com/Date/20150405/1/


ツチハンミョウの仲間は、以下のような「ミラクルな生活史」で、
最終的には、外敵のいない「ハチの巣の中」で幼虫が育つのです。

 1) まず、ツチハンミョウの雌は、4000以上の卵を産む。
   この数は、通常の昆虫の産卵数ではない。

 2) そして、春先に孵化した1齢幼虫は、アザミなどの花によじ登る。
   自分で花の蜜を吸うためではない。
   ハナバチが蜜を吸いに来るのを待つのである。

 3) 運良くハナバチが来ると、強靭な大あごと肢の爪で、
   ハナバチの毛にしがみつき、その巣にたどり着く。

 4) 運悪くハナバチの雄にしがみついてしまった場合、
   交尾したときに、雌の体に飛び移るという。

 5) 巣の中に入った1齢幼虫は、そこで、ハナバチの卵を食べる。

 6) そして、脱皮した2齢幼虫はなんと、イモムシ状になり、
    今度は、蜜の上に浮いて蜜を食べる。

 7) その後、3齢幼虫になると、また体型が変化し、
   ほとんど動かないサナギにそっくりの擬蛹になる。

 8) さらに、擬蛹の中で、またイモムシ状の4齢幼虫になり(逆戻りの変態)、 
   まもなく通常の蛹となって、ついで写真のような成虫となる。

 9) 成虫は林床や草地を徘徊し、苔などを食べていると言われる。


どうして、雌成虫は、子供(幼虫)のために、
直接ハナバチの巣に産卵しないのでしょうか?
その方が、自分の子孫も残しやすいはずなのに・・・

理由は、ただ一つしかありません!!

お腹に卵を沢山持った雌成虫は、飛ぶことができないのです。
もちろん、雄も飛べないのですが・・・

 ⇒飛べないから、沢山の卵を産むようになったのでしょうか?
  それとも、沢山の卵を産むために、飛べなくなったのでしょうか??







一方、自分で隠れ家を形成し、その中で生活する虫たちも沢山います。


ニトベミノガ幼虫(ミノガ科)
イメージ 8
2013年10月24日 弘前市・青森

よく知られているように、ミノムシ類(ミノガ類の幼虫)は、
落ち葉や枯れ枝のごみの中に隠れるのではなくて、
自らの体に、それをくっつけてしまうのです。

こうすれば、自由にどこでも歩き回ることができます。

上の写真は、ハマナスの枝にいる集団なのですが、
どう見ても枯れ葉のかたまりのようにしか見えません。

【君はミノムシ? それともクサカゲロウ幼虫?】
  ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20131205/1/ 







クサカゲロウの仲間の幼虫(クサカゲロウ科)
イメージ 4
2013年9月9日 白岩森林公園・青森

フタモンクサカゲロウ幼虫も、小さすぎてあまり知られていませんが、
やはり、枯れ葉やゴミなどを背なkに背負って、幼虫時代を過ごします。

こうしていると、捕食者は全く気付かず、十分身を守ることができます。

【クサカゲロウの仲間の幼虫】
  ↓   ↓   ↓
 http://sallygenak.livedoor.blog/archives/2016-0914

後述する隠蔽的擬態のように、自分自身の体を枯れ葉に似せるなら、
最初から本物を体に付着させれば、それに勝る隠れ蓑はないし、
より現実的で良いのでは、と思ってしまいます。






また、そのまま移動することはできませんが、自分で隠れ家を製造する虫たちもいます。


ノメイガの仲間(メイガ科)
イメージ 5
2016年6月12日 だんぶり池・青森

この子は、大きなフキの葉っぱを、まるで人間が作った「オニギリ」のように、
上手に折り曲げて、綴り合せています。

可哀想ですが、そっと開けて、オニギリの中身を確認してみました。

 ⇒もちろん、中身は梅干しではなく、
  真っ黒な糞と、丸々太った幼虫がいました(右下)。

 
【不思議なオニギリ 一体誰が?】
  ↓   ↓   ↓
 http://sallygenak.livedoor.blog/archives/2016-0626








ウコンノメイガ(メイガ科)
イメージ 6
2016年6月12日 だんぶり池・青森

アカソ(イラクサ科)の葉っぱが、あちこちで見事に巻かれていました。

ちょっと可哀想ですが、さりげなく開けてみると、
丸々太ったウコンノメイガの幼虫がいました(左下)。

 ⇒上のオニギリほど完璧なものではありませんが、
  葉っぱを綴り合わすだけで、簡単な隠れ家になるようです。








コマチグモの仲間の巣
イメージ 7
2014年10月8日 弘前市・青森

いわゆるクモの巣のイメージは同心円状のネットで、
獲物を捕らえるための道具になることが多いのですが、
このように葉っぱを巻いて巣を作ると、立派な隠れ家になります。

もちろん、この巣には、獲物をとらえる機能はありません。

 ⇒どうしたら、こんな風に葉っぱを巻くことができるのでしょうか?





次回は、身を隠すことはなく、背景に溶け込んで目立たなくしている虫たちです。







このブログでは、私自身が興味を持っている「虫たちの行う防御行動」について、
様々な例を挙げながら、順不同で記事にしてきました。

それらを、多少とも体系的に整理し、写真もダブらないようにしながら、
もう一度まとめ直して、順番に紹介していきたいと思います。


・・・・現時点では、連続21回の予定です。




【虫たちの生き残り戦略①】  防御手段の分類


種を細かく分化することによって、非常な繁栄を続けている虫たちは、
その一方で、多くの動物たちの重要な食物源(餌)となっています。

逆に言うと、虫たちは「食べられてしまうことを予測して!」、
できるだけ沢山の子供を産んでいるとも、考えられます。

よく言われるフレーズですが、一組のカップルが100個産卵して、
そのうち98匹が途中で捕食者に食べられてしまっても、
雌雄が各1匹ずつ生き残って、別の雌雄と交尾できれば、
結果的には、種の維持ができていることになります。

 ⇒もちろん、大きな卵を少数産む種もいますが、その場合には、
  ほとんどの個体(幼虫期!)が何らかの防御手段を持っていて、
  繁殖時期になるまで、捕食者の動物の餌食になってしまうことはありません。




では実際に、捕食者はどれほどの虫たちを食べているのでしょうか?

例えば、ドイツで行われた古典的な研究によると、
ある森に棲むシジュウカラ1羽が1年間に捕獲する虫の量は、
蛾の幼虫に換算すると、125,000匹になるとされています。


シジュウカラ(シジュウカラ科)
イメージ 1
2010年3月23日 深谷市・埼玉

日本の研究例では、大阪府が万博公園で行った調査がありますが、
育雛期(平均8羽のヒナがいる!)のシジュウカラ夫婦は、
たった1日で、約500匹の虫を巣に運んだことが確認されています。

【虫を食べる野鳥類① シジュウカラ】
  ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20140203/1/




こんな数値を知っただけでも、多くの虫たちにとって、
他の動物から食べられてしまわないような対策をとることは、
何らかの意味があることが想像できます。

ただ、その対策は、当然のごとく種によって全く異なっていますし、
実際の防御効果も完璧なものはありません。

 ⇒ある捕食者に対して、完璧な防御手段であっても、
  別の捕食者に対しては、無効な場合が多いからです。


ただ、捕食者に食べられないようにするためだけに、
全てのエネルギーを注ぎ込んでいるような虫たちもいます。

例えば、このブログで何度も紹介した、ハイイロセダカモクメ幼虫は、
やり過ぎとも思えるほど、ヨモギの花穂にそっくりな姿かたちで、
完全にヨモギの花穂の出現とシンクロナイズして、一生を終えます。


ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)
イメージ 2
2012年10月6日 だんぶり池・青森

この姿かたちは、視覚的に獲物を探す野鳥類のような捕食者に対しては、
ほぼ完璧に近い防御効果が得られると思います。

ただ、匂いや動きで獲物を探す別の捕食者に対しては、有効な手段とはなりません。

 ⇒以前の記事で、クチブトカメムシが、ハイイロセダカモクメ幼虫を、
  捕食する場面を紹介したことがありました。

  【ハイイロセダカモクメ幼虫 衝撃の瞬間】
    ↓   ↓   ↓
   http://kamemusi.no-mania.com/Date/20111018/1/




このような例は、まだまだ沢山あります。

例えば、カメムシ類は、強烈な臭気成分を噴射しますが、
確実な防御効果が認められるのは、アリに対してだけで、
野鳥類など多くの捕食者は、カメムシを平気で食べてしまいます。

 ⇒カメムシが野鳥類に食べられないこともありますが、
  それは、体内に不味成分を持つ警戒色の種類だけです。

  【カメムシの匂いの秘密(新)】
    ↓   ↓   ↓
   http://sallygenak.livedoor.blog/archives/2016-0425




捕食者からの防御手段に、かなりのエネルギーを使っている種がいる一方で、
全く防御手段を持ち合わせていないような虫たちも当然います。


アブラムシの仲間の大集団
イメージ 3
2011年6月25日 だんぶり池・青森

捕食者に出会ったときに、逃げることもできないような虫たちは、
ある程度、捕食者に食べられてしまうことを予測(?)して、
それに見合うだけの沢山の卵を産んでいることが多いのです。

これも、一つの防御方法なのかもしれませんが・・・







・・・ということで、捕食者に対して虫たちの行う防御行動は、千差万別です。

ただ、それらを、いくつかのカテゴリーに分けることは、簡単にできそうです。
まずは、虫たちの行う防御方法そのものに重点を置くと、
以下の3つのカテゴリーに分けることができます。

(A) 逃避的防御法: 翅、脚、鱗粉など
(B) 攻撃的防御法: 防御物質、武器、目玉模様など
(C) 謀略的防御法: 保護色、隠蔽的擬態、ベイツ型擬態、フン擬態など

この分類法は、3つにしか分けていないので、例外は出にくのですが、
あまりにも大雑把すぎて、分類したことにならない気がします。




一方、捕食者の捕獲行動に重点を置いた場合には、
獲物を捕獲するステップごとに、以下の6段階に分けて、
どの段階で働く防御法なのかによって、分類することもできます。

(step1) 探索する:  保護色、警戒色など
 ↓
(step2) 発見する:  擬態、フン擬態、金属光沢など
 ↓
(step3) 接近する:  目玉模様?、擬死?など
 ↓
(step4) 攻撃する:  防御物質、対抗武器など
 ↓
(step5) 捕獲する:  硬い体、足のつっぱり、自切など
 ↓
(step6) 摂食する:  有毒物質、不味成分など


この分類法でも、例えば、擬死や目玉模様が働くのは、
いったいどの段階なのかは、かなり微妙だと思います。

特に(step1)と(step2)にまたがる分類困難な防御法があったり、
さらには、(step4)と(step5)の場合には、捕獲方法の違いによって、
種分けができにくい場合も出てきます。




ハクセキレイ(セキレイ科)
イメージ 4
2011年8月8日 裏磐梯・福島





この他にも、多くの先駆者たちが、虫たちの行う防御戦略を、
適切に分類・整理して、単行本や総説などにまとめています。

今回のシリーズでは、以下の「現在主流となっている分類方法」に従って、
被食者の行う防御戦略を、写真をメインに紹介していきたいと思います。


【一次的防御法】
 ⇒捕食者が近くにいても、いなくても無関係に働く防御法で、
  捕食者との出会いの機会を出来るだけ減らすことを目的としています。

 ◎ 隠れている
 ◎ 体の色や模様を背景に溶け込ませる
 ◎ 姿かたちを、目立たないようにする
 ◎ 目立つ色で、危険であると知らせる
 ◎ 他の危険な種に似せる
 ◎ 食べ物ではないものに似せる
 ◎ 集団になる
 ◎ 捕食者を騙す


【二次的防御法】
 ⇒捕食者と出会ってしまったときに働く防御法で、
  被食者の生存の確率を増加させることを目的としています。

 ◎ 素早く逃げる
 ◎ 脅かして攻撃を躊躇させる
 ◎ 死んだふりをする
 ◎ 攻撃をはぐらかす
 ◎ 化学的に反撃する
 ◎ 物理的に反撃する





次回は、「虫たちの生き残り戦略②  隠れている」 です。






私は、いつからか、虫を採るのは止めて、
歩きながら、目についた虫だけを撮っている。

そうすると、緑色の葉っぱの上にいる虫たちが、
被写体になることが、比較的多いことになる。

 ⇒この撮影スタンスは、野鳥類が餌である虫を探す場合と、
  ちょっとだけ似ている・・・・(と思う)。
  少なくとも私の目線では、捕食者の餌とならないように工夫された、
  虫たちの様々な防御手段に、驚かされることが多い。

今回紹介するシロシタホタルガの幼虫は、
明らかによく目立つ格好で、しかも目立つ位置にいる。


 



シロシタホタルガ幼虫(マダラガ科)
イメージ 1
2015年5月14日 安曇野・長野

このような白黒のまだら模様は、間違いなく警戒色だろう。

しかも、葉っぱの上で堂々と摂食行動をしている姿は、
自分は鳥に食われないと言う確かな裏付けがあるからなのかもしれない。

 ⇒餌を食べていないときには、葉っぱの陰に隠れるか、
  少なくとも葉っぱの裏側にいれば良いものを・・・?







シロシタホタルガ幼虫(マダラガ科)
イメージ 2
2015年5月14日 安曇野・長野

寮サイドには、赤い点々があるので、真上から見るより目立つかもしれない。

さらに、白っぽい短い毛が生えているが、これは、毒針毛ではないので、触っても大丈夫だ。
もちろん、マダラガ科なので(?)、体内に不味成分を持っている。








シロシタホタルガ幼虫(マダラガ科)
イメージ 3
2016年5月15日 東海村・茨城

一般的には、というか絶対に(!)、幼虫は、
サワフタギという樹木の葉だけを餌として成長する。

それ以外の食草は、クロミノニシゴリが知られているが、
この植物は、本州の中部以西にしか自生しない。

写真の3匹の幼虫は、間違いなくシロシタホタルガだが、
静止しているのは、キク科ヒメジョオンの葉っぱの上だ。

おそらく、この公園のどこかには、
本来の餌であるサワフタギがあるのだろう。

【ちょっと不思議④ 徘徊するシロシタホタルガ幼虫】
  ↓   ↓   ↓
 http://sallygenak.livedoor.blog/archives/2016-0611







・・・・成虫も、ちょっとだけ不思議だ。





シロシタホタルガ成虫(マダラガ科)
イメージ 4
2013年7月14日 蔦温泉・青森

おそらく和名の由来は、個人的なはそうは思わないが、
色使いが、ホタルに似ているからなのだろう。

 ⇒ネット上では、「ホタルにベイツ型擬態している」と、
  紹介されることもあるが、もし擬態しているとすれば、
  ミュラー型擬態の範疇に入るはずだ。


白線の位置が異なるただのホタルガという種類もいるが、
分布の重なる地域では注意が必要だ。

【虫たちの親子-07 ホタルガとシャチホコガ】
  ↓   ↓   ↓
 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20130610/1/







もう一枚、成虫の写真・・・これは自画自賛!?



シロシタホタルガ成虫(マダラガ科)
イメージ 5
2016年7月23日 十石峠・長野

ホタルガ翅を広げている貴重な姿の写真!!!

 ⇒軽くネット検索しても、このように翅を広げているものは、  
  標本写真鹿見当たらない・・・?


頭部が赤色で、白色・黒色の翅に、腹部が不気味に青白く、
やはり、成虫も警戒色なのだろう。






今回で、親子シリーズは、さりげなく休止します。

次回から、10数回の予定で「虫たちの防御戦略シリーズ」を開始します。






蛾の幼虫がヘビのように見えることが、たまにある。

特に、ベニスズメの幼虫は、目玉模様のある頭部を前から見たとき、
一瞬ビビッてしまうほどの迫力である。

 ⇒ただ、サイズ的には「一体誰が騙されるのか?」という印象もあるが・・・?


  ベニスズメ幼虫(スズメガ科)
  イメージ 6
  2010年10月12日 白岩森林公園

  【君はヘビか? ベニスズメ幼虫】
    ↓   ↓   ↓
   http://kamemusi.no-mania.com/Date/20101215/1/
   


しかし、サティロス型擬態の概念があることを知り、
さらには、野鳥類の視覚認知システムの特異性を考えると、
このヘビの模様を見て、実際に騙される捕食者がいるということが、
十分に「あり得る!」と思えるようになってきた。

【サティロス型擬態 ヨナグミサンとヘビ】
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 http://kamemusi.no-mania.com/Date/20151001/1/
   





今回は、ハバチの幼虫・・・・




オオツマグロハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 3
2016年7月23日 八島湿原・長野

私のお気に入りの撮影場所である霧ヶ峰の八島湿原の遊歩道で、
セリ科植物の葉っぱの上に、鳥の糞のようなものを見つけた。

近づいて確認すると、どうやらハバチの幼虫だった。

 ⇒こんな感じで多くのハバチ幼虫は、
  丸くなって静止する習性があるのだ。








オオツマグロハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 2
2016年7月23日 八島湿原・長野
 
軽くツンツンすると、ゆっくり頭部を持ち上げた。

何とその姿は、トグロを巻いたヘビが、
ゆっくりと動き出す瞬間に似ていた。

 ⇒鳥の糞が、突然ヘビになったのだ!!!

・・・というか、模様はまさにヘビ(!)なのだ。








オオツマグロハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 1
2016年7月23日 八島湿原・長野

すぐ近くに、別の個体を発見した。

どうやら、幼虫はセリ科の植物の葉を食べるようだ。

 ⇒こっちは、最初からヘビの姿だ。







 
オオツマグロハバチ幼虫(ハバチ科)
イメージ 4
2016年7月23日 八島湿原・長野

この4枚の写真を見て、お気付きの方もおられると思うが、
いずれの写真にも、幼虫の食痕が写っていないのだ。

食事が終わって、現在静止している葉っぱの表面では、
捕食者に発見されやすい場所であるはずなのだ。

 ⇒よっぽど、ヘビの姿に自信があるのだろうか?







そして、成虫は?!




オオツマグロハバチ成虫(ハバチ科)
イメージ 5
2015年5月18日 榛名湖・群馬

名前のとおり、比較的大きなハバチで、
体色は目立つ黄色と黒のツートンカラー。
 
羽は透明で、先端が黒くなっている。

 ⇒比較的多いネット写真で見る限り、
  こんな雰囲気で翅を左右に大きく広げて、
  お尻を高く上げる静止ポーズが得意のようだ。


前の写真で食痕は全くなかったが、ハバチの仲間なので、
幼虫は、間違いなくセリ科植物の葉っぱを食べる。

ただ、ちょっとだけ不思議なことに、成虫は肉食性で、
他の昆虫類を、捕獲してムシャムシャ食べてしまうのだ。

まぁ、ハチなので・・・




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