【虫たちの生き残り戦略③】 保護色(隠蔽色)
多くの虫たちは、自分の体の色や模様を背景に似せて、
捕食者から目立たないようにすることがあります。
捕食者から目立たないようにすることがあります。
何かの下に隠れているのではなく、捕食者から見える場所にいるときでも、
できるだけ見つかりにくいような色や模様の虫たちです。
できるだけ見つかりにくいような色や模様の虫たちです。
⇒そのような体色のことを、保護色(隠蔽色)と言いますが、
もちろん、静止する背景が重要な選択条件になります。
もちろん、静止する背景が重要な選択条件になります。
有名な保護色の写真は、あとで示しますが、まずは、こんな実例をご覧ください。
ハガタアオヨトウ(ヤガ科)
2011年7月19日 登別温泉・北海道
2011年7月19日 登別温泉・北海道
この子のうす茶色と灰色が入り混じった前翅には、
ところどころに、黄緑色の不規則な模様があって、
苔の生えた樹皮のように見えます。
ところどころに、黄緑色の不規則な模様があって、
苔の生えた樹皮のように見えます。
写真では分かりにくいのですが、「ここまで似せなくても!」と思うほどの迫力です。
⇒もし、こんな蛾が、薄暗い森の大木に静止していても、
視覚で獲物を探す捕食者(特に野鳥類)には、
決して発見されることはないでしょう。
もちろん、私のように必死に虫を探す人間にも!!
視覚で獲物を探す捕食者(特に野鳥類)には、
決して発見されることはないでしょう。
もちろん、私のように必死に虫を探す人間にも!!
でも残念がら、写真の子は静止する場所を間違えたため、
私ごときに、写真を撮られてしまったのです。
虫たちの体色が、目立つのか・目立たないのかは、
当然ですが、彼らが静止する背景によるのです。
当然ですが、彼らが静止する背景によるのです。
もう一つの例を示します。
アオスジアオリンガ(コブガ科)
2011年7月9日 知床・北海道
2011年7月9日 知床・北海道
多くの蛾の仲間(成虫!)は、夜行性なので、
あまり翅全体が緑色の種類は多くありません。
あまり翅全体が緑色の種類は多くありません。
例外と言っても良さそうなアオスジアオリンガは、
いわゆる保護色とされる「うす緑色」をしています。
いわゆる保護色とされる「うす緑色」をしています。
でも、写真の子の背景選択は、微妙に間違っていて、
静止する葉っぱが、うす緑色の若葉(?)ではなかったのです。
⇒もちろん、この書き方は正確ではなく、
虫たちが自分の体色を知っているとは思えないので、
静止する背景を、おそらく自分で選ぶことはできないのですが・・・
虫たちが自分の体色を知っているとは思えないので、
静止する背景を、おそらく自分で選ぶことはできないのですが・・・
・・・ところが!!
アオスジアオリンガ(コブガ科)
2015年6月11日 酸ヶ湯温泉・青森
2015年6月11日 酸ヶ湯温泉・青森
こちらの写真の子は、まさに背景のダケカンバの若葉と、
完全に同化するほどの「保護色」でした。
完全に同化するほどの「保護色」でした。
しかも、やや赤っぽく見える前脚が、葉柄の色にさりげなく似てるし・・・
⇒ダケカンバにいるカメムシ類を必死に探しているときに、
「何だ、こりゃ~!!」
と言う感じで、全く偶然に見つけたのです。
「何だ、こりゃ~!!」
と言う感じで、全く偶然に見つけたのです。
おそらく、ツノカメを探しながらでなければ、発見することはなかったと思います。
このように、同じ緑色でも、背景の色に完全に一致している例は、
実は、あまり頻繁に見られるものではありません。
実は、あまり頻繁に見られるものではありません。
⇒というか、人間には見つからないのかもしれませんが・・・
私が撮った緑色の虫の写真は、もう1枚だけしかありません。
キリギリスの仲間の幼虫(キリギリス科)
2011年6月26日 白岩森林公園・青森
2011年6月26日 白岩森林公園・青森
この子も、自分の体色と周囲の葉っぱの色が、完全に一致しています。
⇒中央の葉っぱに、多分ツユムシ類の幼虫がいます。
私は、さりげなく見逃していて、
私は、さりげなく見逃していて、
しばらくしてから、「あれっ!? いたの?」
という感じで撮影したものです。
という感じで撮影したものです。
一方、緑色の葉っぱ以外の場所にいる虫たちは、
背景の模様が複雑になっている分、結構沢山見られます。
今回の写真は、余計なお世話かもしれませんが、該当する虫たちを赤丸で囲みました。
キエグリシャチホコ(シャチホコガ科)
2013年10月10日 十和田湖・青森
2013年10月10日 十和田湖・青森
右上の赤丸の中に、シャチホコガの成虫がいます。
うす茶色の虫たちも、周囲に枯れ葉がある環境では、
緑色の葉っぱの上にいても、このように、背景に完全に溶け込んでしまいます。
緑色の葉っぱの上にいても、このように、背景に完全に溶け込んでしまいます。
⇒写真は、おそらくキエグリシャチホコだと思いますが、
たまたま、私が虫を探して枝を引き寄せたときに、
飛んで逃げた個体を、目で追いながら着地点を確認して、
その付近を必死に探して、ようやく見つけたものです。
たまたま、私が虫を探して枝を引き寄せたときに、
飛んで逃げた個体を、目で追いながら着地点を確認して、
その付近を必死に探して、ようやく見つけたものです。
このように、運が良ければ、写真撮影できるのですが、
普通に探していたのでは、絶対に見つからなかったと思います。
エゾシロシタバ(ヤガ科)
2013年9月4日 志賀坊森林公園・青森
これはエゾシロシタバという蛾ですが、前翅の表面は、
少し苔の生えた樹皮そっくりです。
少し苔の生えた樹皮そっくりです。
中央の赤丸の中に、蛾の成虫がいますが、
この子も、飛んで逃げた先を、目で追って探したものです。
この子も、飛んで逃げた先を、目で追って探したものです。
ニイニイゼミ(セミ科)
2011年8月5日 白岩森林公園・青森
樹木の幹の色と模様まで似せているニイニイゼミは、
こんな雰囲気なので、普通は見つけることができません。
こんな雰囲気なので、普通は見つけることができません。
中央の赤丸の中に、セミの成虫がいるのがお分かりでしょうか?
⇒この子が樹木の高い位置にいて、
遠目にしか見ることができなかったら、
とっくに探すのをあきらめていたと思います。
遠目にしか見ることができなかったら、
とっくに探すのをあきらめていたと思います。
しかし、ニイニイゼミやエゾシロシタバが、緑色の葉っぱの上にいれば、
最初の写真のハガタアオヨトウのように、簡単に見つかってしまいます。
最初の写真のハガタアオヨトウのように、簡単に見つかってしまいます。
セミや蛾の輪郭が、くっきりと浮かび上がってしまうからです。
これが、保護色の限界であり、致命的な欠陥でもあるのです。
もうひとつ興味深い例を示します。
まずは、以下の写真をご覧ください
イシサワオニグモ(コガネグモ科)
2016年9月17日 弘前市・青森
2016年9月17日 弘前市・青森
赤色とうす黄色の縞模様は、かなりよく目立つので、
次回紹介する予定の「警戒色」の典型だと思います。
次回紹介する予定の「警戒色」の典型だと思います。
⇒ただ、イシサワオニグモは、有毒ではありませんし、
強力な武器を持っているわけでもありません。
強力な武器を持っているわけでもありません。
別の機会に紹介予定の「ベイツ型擬態」でもなさそうです。
そして、カメラのファインダーを覗きながら、
ほんの一歩だけ被写体に近づきました。
そのとき、突然このクモが、視界から消えてしまったのです。
? ? ? ? ? ? ? ?
イシサワオニグモ(コガネグモ科)
2016年9月17日 弘前市・青森
何ということでしょうか?
この鮮やかな模様は、ヨモギの花穂の中に入ると、
実に見事な「保護色」として機能していたのです。
実に見事な「保護色」として機能していたのです。
⇒同じような例が、警戒色のアカスジカメムシにも見られます。
この子は、赤と黒の縞模様の典型的な警戒色なのですが、
晩秋の枯れたセリ科の種子の上に静止していると、
全く目立たない保護色になってしまうのです。
もちろん、イシサワオニグモが、
必ずヨモギの花穂に巣を張るとは限らないので、
たまたま、このような結果になったのかもしれません。
必ずヨモギの花穂に巣を張るとは限らないので、
たまたま、このような結果になったのかもしれません。
⇒もしかしたら、この子の保護色的な色彩は、
次回紹介予定の「分断色」の範疇かもしれませんが・・・
次回紹介予定の「分断色」の範疇かもしれませんが・・・
ところで、保護色の虫たちは、本当に背景を選ぶのでしょうか?
また実際に、どの程度の防御効果があるのでしょうか?
また実際に、どの程度の防御効果があるのでしょうか?
昔から、保護色の防御効果を知るために、様々な実験が行なわれています。
有名な例では、イギリスの工業黒化のオオシモフリエダシャクの実験があります。
通常の白っぽい個体と、ススで汚れたような黒っぽい個体を、
それぞれ、白い色紙と黒い色紙の上に放すと、
細かいデータは覚えていませんが、僅かの差で、
自分の体色に合った背景を選んでいるという実験結果でした。
それぞれ、白い色紙と黒い色紙の上に放すと、
細かいデータは覚えていませんが、僅かの差で、
自分の体色に合った背景を選んでいるという実験結果でした。
⇒もちろん、保護色の効果があるからこそ、
工業地帯では黒っぽい個体が多くなったのです。
工業地帯では黒っぽい個体が多くなったのです。
しかし、虫たちの背景選択に関する実験結果は、
色々な条件が複雑に絡み合っている可能性もあり、
予想される(?)結果にならないことが多いのです。
例えば、茶色と緑色のバッタが、それぞれ自分の体色に応じて、
生きている草か、枯れた草を選ぶかを実験的に確かめるような場合、
どんな刺激を根拠にするのかを、確認することから始めまなければなりません。
生きている草か、枯れた草を選ぶかを実験的に確かめるような場合、
どんな刺激を根拠にするのかを、確認することから始めまなければなりません。
⇒つまり、色を見るという視覚刺激以外の条件、
例えば、緑葉の匂い、周辺の温度や湿度、足ざわり感触、
草が立っているか寝ているかなどの他に、
試験するバッタの空腹度や生育段階なども、
あらかじめ考慮しておかなければならないのです。
例えば、緑葉の匂い、周辺の温度や湿度、足ざわり感触、
草が立っているか寝ているかなどの他に、
試験するバッタの空腹度や生育段階なども、
あらかじめ考慮しておかなければならないのです。
一方、実際の防御効果に関しても、多くの実験結果を見ると、
ほんの少しだけ「生存率が上がるかな?」というレベルなのです。
ほんの少しだけ「生存率が上がるかな?」というレベルなのです。
⇒もちろん、保護色の有効性が、ほんの少ししかないのであれば、
虫たちが、自分の体色を知っていて、自らの体色に有利な背景の色を、
本当にに選んでいるのかどうかについては、もっと微妙だと思います。
虫たちが、自分の体色を知っていて、自らの体色に有利な背景の色を、
本当にに選んでいるのかどうかについては、もっと微妙だと思います。
このように、研究者がかなり苦労して、ある行動の防御効果を測定し、
それが僅か数%生き残る確率が増えただけという結果しか得られなかったとしても、
おそらくその形質は、進化していくはずです。
次回は、保護色の範疇に入りますが、分断色の虫たちです。