ちょっとだけ不思議な昆虫の世界(3)

今回で2度目の引っ越しです。 さりげなく(Sally Genak)虫たちの不思議な世界を紹介しています。

2020年07月


(前回からの続きです)


日本国内に分布するカミキリの仲間は、約800種類が知られているようですが、
そのうち普通に(?)見られるのは、おそらくその半分程度かもしれません。

このシリーズでは、私が現在までに撮ることができた約80種の中から、
成虫が何らかの「捕食者に対する防御手段」を持つと思われる種類を選択して、
撮影順(!)に並べてみました。






11: エグリトラカミキリ(カミキリムシ科) 
11 SG-3682a
2011年6月26日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態(?): モデルは小さなハチ

前回の「07: クロトラカミキリ」とよく似ていますが、背景の状況では、
小さなハチに見えることがあります。

 ⇒いずれにしても、このような黄色と黒色の模様は、よく目だつので、
  人間の世界(?)でも、道路標識などで使われています。
  
  






12: ホソツツリンゴカミキリ(カミキリムシ科) 
12 SG-4148a
2011年8月2日 だんぶり池・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル
または、
 ➡➡➡ 隠蔽的擬態: モデルは枯れ枝(?)

赤と黒のツートンカラーで、ホタルに似ています。
ただ、身体が極端に細長いので、枯れ枝に静止していると、
隠蔽的擬態の範疇になるのかもしれません。








13: シラフヒゲナガカミキリ(カミキリムシ科)
13 SG-4259a
2011年8月15日 乗鞍高原・長野

 ➡➡➡ 保護色: 背景は樹皮や地衣類

上の写真でも、瞬間的に探し出すのは難しいほど、背景に溶け込んでいます。
 ⇒撮影時は、さりげなく上を見上げたときに偶然に見つけたので、
  カミキリを見つけて、ちょっとだけビックリしました。

しかし、葉っぱの上で静止している場合は、カミキリの輪郭がはっきり見えて、
当然のこととして、かなり目立つ存在になってしまいます。

 【ヒマを見つけて擬態の話《3》 隠蔽的擬態のあれやこれやの話 】
     ↓   ↓   ↓








14: アカネカミキリ(カミキリムシ科)  
14 SG-5026a
2012年5月18日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはアリ

最初に見つけたときには、よく見かける「ムネアカオオアリ」と間違えました。

 ⇒ただ、このとき以来、アリと間違えることはなくなりましたが・・・!!

 【アリのようなカミキリ発見!!】
    ↓   ↓   ↓








15: マツシタトラカミキリ(カミキリムシ科)  
15 SG-2113a
2012年6月19日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはアリ

撮影アングルや距離にもよりますが、前種(14)よりもっと、
サイズ的にも「ムネアカオオアリ」に似ています。

 ⇒こっちの方は、たまに間違えます。

 【マツシタトラカミキリ? ムネアカオオアリ??】
    ↓   ↓   ↓








16: ヤツメカミキリ(カミキリムシ科)  
16 SG-5375a
2012年6月20日 芝谷地湿原・秋田

 ➡➡➡ 警戒色: 微妙な有毒植物を食べる (サクラやウメの葉っぱ)

緑がかった黄褐色の微毛で覆われた綺麗な体長は15mm程度のカミキリ。

一般的な構造色による金属光沢ではないが、まるで警戒色のようによく目立つので、
捕食者が非生物(食べ物でない)と判断する可能性があります。


カミキリムシ科の中でも、トホシカミキリやシラホシカミキリ、ラミーカミキリなど、
トホシカミキリ族 (Saperdini)の仲間は、美麗種あるいはよく目立つ種が多い【注】ので、
捕食者に何かしらの特別な信号を発信して、捕食されにくくしている可能性もあります。

 ⇒トホシカミキリ族のカミキリ成虫は、寄主植物の葉を後食し、
  その多くが微妙な有毒植物(?)と思われる場合もあるので、
  何らかの関連があるのかもしれません。




【注】トホシカミキリ族 (Saperdini)は、以下の17種が知られていますが、
   その多くはいわゆる美麗種で、葉っぱの上にいるとよく目立ちます。
   成虫は寄主植物の葉を後食しますが、微妙な有毒植物(*)のようです。

   ムネモンヤツボシカミキリ Saperda tetrastigma  サルナシ、ツルアジサイ
   ハンノキカミキリ Cagosima sanguinolenta  ハンノキ
   ヨツキボシカミキリ Epiglenea comes comes  ヌルデ、ネムノキ、ヤマウルシ
   ヤツメカミキリ Eutetrapha ocelota  ウメ、サクラ、シナノキ
   シラホシカミキリ Glenea relicta relicta  リョウブ、オヒョウ、アジサイ
   ラミーカミキリ Palagrenea frotunei  ラミー、カラムシ、イラクサ
   ニセシラホシカミキリ Pareutetrapha simulans  サワフタギ、ツルハシバミ
   フチグロヤツボシカミキリ Pareutetrapha eximia  ホオノキ、コブシ
   キクスイカミキリ Phytoesia rufiventris  ヨモギ、キク
   ヒゲナガヒメルリカミキリ Praolia citrinipes   アブラチャン、リョウブ
   アサカミキリ Thyestilla gebleri  アサ、ラミー
   リンゴカミキリ Oberea japonica  ナシ、リンゴ、モモ、ナナカマド
   ヒメリンゴカミキリ Oberea hebescens  クスノキ、クロモジ、アブラチャン
   ホソキリンゴカミキリ Oberea infranigrescens  フジ、ハギ、アジサイ
   ホソツツリンゴカミキリ Oberea nigriventris  イケマ
   シラハタリンゴカミキリ Oberea shirahatai  スイカズラ
   ヘリグロリンゴカミキリ Nupserha marginella  アザミ

   (*)以下の過去記事で紹介したように、捕食者の好き嫌いによって、
    微妙に捕食を免れている場合もありそうです。

    【警戒色の虫たちと有毒植物① 葉っぱの味は?】
       ↓   ↓   ↓
     
    【警戒色の虫たちと有毒植物② 虫たちにも好き嫌い】
       ↓   ↓   ↓
     
    【警戒色の虫たちと有毒植物③ アブラナ科】
       ↓   ↓   ↓
     
    【警戒色の虫たちと有毒植物④ イラクサ科】
       ↓   ↓   ↓
     
    【警戒色の虫たちと有毒植物⑤ セリ科】
       ↓   ↓   ↓
    







17: ホタルカミキリ(カミキリムシ科)  
17 SG-2130a
2012年6月27日 蓮華温泉・新潟

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル

名前からして、明らかにホタルに似ています。

 ⇒この配色の「ゲンジボタル」などは、体内に不味成分を持っていて、
  捕食者は避けることが知られています。







18: ハンノキカミキリ(カミキリムシ科)  
18 SG-5531a
2012年6月28日 燕岳山麓・長野

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル

この写真では多少分かりにくいかもしれませんが、胸部が赤色なので、
大まかには「ゲンジボタル」のようなイメージだと思います。

 ⇒モデルになっているのか、確かではありませんが、
  「アカヘリサシガメ」や「ルイスクビナガハムシ」にも、
  微妙に似ているかもしれません。








19: ムネアカクロカミキリ(カミキリムシ科)  
19 SG-2796a
2013年6月2日 東海村・茨城

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル

クロハナカミキリの雌にも似ていますが、写真同定はできません。

 ⇒ここではムネアカクロハナカミキリとしましたが、
  ネット情報による識別方法は、確認できませんでした。
  ただ写真で見る限り、腹部の先端が凸になっているようです。
   







20: ヨツキボシカミキリ(カミキリムシ科)  
20 SG-6310a
2013年6月4日 小舟野沢林道・茨城

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルは小さなハチの仲間

黄色と黒色の模様は、緑の葉っぱの上では、確かによく目立ちます。

逆に、この配色でハチに似ていない(=捕食者に見破られる)ならば、
よく目立つので、簡単に見つかって食べられてしまうはずです。





(このまま次回に続きます)


カミキリムシの仲間は、幼虫時代には植物の内部に入り込んで生活しているので、
食べ物は周辺にいくらでもあり、捕食者の餌食になることは基本的にありません、

しかし、成虫になってからは、捕食者から狙われる機会が急増します。

カミキリの成虫には、絶対的な防御手段はないので、必然的に捕食者の視覚を騙して、
アリ、鳥の糞、ハチなどに似せるような擬態が多く見られるようになります【注】

 ⇒そのためか、カミキリムシ科の仲間は、ハムシ科やゾウムシ科と違って、
  形態や色彩、サイズなどが千差万別なので、いわゆる虫マニアの中でも、
  カミキリ屋さんが多い理由の一つかもしれません。




今回から数回に分けて、写真撮影できたカミキリ類(成虫!!)について、
捕食者に対する様々な防御手段を分類しながら、撮影順に紹介していきます。

ただ、その内容に関しては、私個人の感想を書いたものなので、
どうしても同意できない、あるいは納得できなと言う方も、
多分、沢山いらっしゃるかもしれません。

 ⇒私自身は、いわゆる擬態に関しては、○○は擬態で、△△は擬態ではないと、
  明確に識別・分類できるものではないと思っています。




【注】カミキリムシの仲間も含めて、ほとんどの虫たちの体色や模様は、目立つのか、
   あるいは目立たないか、どちらか一方に分けられると思います。
   ⇒もちろん、厳密には静止する背景(の色)によって異なります・・・

   普通に考えれば、少しでも捕食者から見つかりにくいような、
   背景に溶け込む保護色の虫たちが基本だと思いますが、
   ある特殊な虫たちは、逆に良く目立つような色彩になることがあります。
   その特殊な虫たちの多くが、体内に有毒物質や不味成分を持っているか、
   あるいは、捕食者にとって危険な武器を持っていたりするので、
   捕食者はその目立つ色を覚えていて、2度と攻撃することはなくなるのです。
   ⇒そのような目立つ色彩を、警戒色あるいは警告色と言います。

   そして、虫たちの中には、体内に不味成分もなく武器も持たないのに、
   警戒色の虫たちに似せることによって、攻撃を避けようとする種類がいます。   
   ⇒一般的には、ベイツ型擬態とされている虫たちです。

   カミキリの仲間には、このベイツ型擬態の例が多いような気がします。
   逆に、保護色に分類される(?)種類は少意外とないのかもしれません。





記念すべき(?)最初の1枚は、20世紀に撮ったこの写真です。


01: イシガキゴマフカミキリ(カミキリムシ科) 
01 SG-2513a
1999年6月20日 石垣島・沖縄

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルは毒グモ

デジカメがようやく普及してきたころの写真です。
この黄色と黒色の色彩パターンは、良く目立ちます。

本種は、カミキリにしては触角が短く太いので、
8本足のクモに似ているように見えます【注】

 ⇒モデルは縞々の脚を持つ有名な「タランチュラ」のようですが、
  学習可能な捕食者(野鳥類など)が攻撃しない可能性について、
  調査・観察が行われているかどうかは不明です。

  もし仮に、野鳥類が強烈な毒グモを捕獲しても、
  その毒性が強すぎて、死亡するので学習できない・・・(?)


【注】捕食者に直接危害を及ぼさないようなものに擬態する場合、
   例えば、枯れ葉擬態、鳥の糞擬態、その他の非食物擬態などは、
   かなり精密に似せないと、簡単に見破られてしまいます。

   ところが、相手に危害を与えるようなベイツ型擬態(ハチ擬態など)は、
   捕食者が過去の嫌な経験が頭の片隅にあることで、少しでも似ていれば、
   その経験を思い出してしまうので、十分な効果が期待できると思います。

   また、体内に不味成分や有毒物質を含む虫たちを食べて、吐き戻した捕食者も、
   その色彩や形態を覚えて、よく似たものを避けますが、その似ている程度は、
   上記の枯れ葉擬態などと比較して、精密でない場合が多いと思います。

   さらに、サティロス型擬態のように、例えば目玉を強調するような模様も、
   全く同じことが言えるはずで、対称の位置に丸い模様が1対あれば、
   微妙な似せ方でも、ある程度の効果が期待できるのではないかと思います。






02: ヤエヤマホソバネカミキリ(カミキリムシ科)  
02 SG-0123a
2003年4月6日 与那国島・沖縄

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはアシナガバチ(?)

沖縄先島諸島に分布するハチのように見えるカミキリです。
ネット情報では、サイズの変異が大きいとされています。

 ⇒寄生植物であるリュウキュウアカメガシワの生育状況、
  あるいは寄生部位などに影響されるのでしょうか?


個人的には、全体の雰囲気が有毒の蛾「キスジホソマダラ」にも、
さりげなく似ているように感じるのですが・・・

【金属光沢の蛾 キスジホソマダラ】
    ↓   ↓   ↓









03: キンケトラカミキリ(カミキリムシ科)  
03 SG-0320a
2010年6月5日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはスズメバチ

この状態で最初に見つけたときには、小さなスズメバチだと思いました。
全く疑問の余地はなく、典型的なベイツ型擬態であるはずです。

 ⇒もちろん、真上から見ても、飛んでいるときも、よく似ています。








04: ヘリグロベニカミキリ(カミキリムシ科)  
04 SG-0324a
2010年6月6日 弘前市・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはベニボタル

幼虫が竹の中で育つベニカミキリにそっくりですが、よく見ると、
前胸部周辺が黒いので、識別は十分可能です。

 ⇒ただし、両種のこの程度の違いでは、
  ベイツ型擬態の有効性に差はないと思います。









05: 多分クロハナカミキリ(カミキリムシ科)  
05 SG-0362a
2010年6月10日 白岩森林応援・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル

胸部が赤いので、ホタルに似ていると思いますが、赤いのは雌だけです。
雌だけが擬態する例は、チョウの仲間でもよく知られています。

近縁種のムネアカクロハナカミキリの雌にも似ていますが、
残念ながら、写真同定は難しいと思います。

 ⇒ここでは、やや北国に多いとされるクロハナカミキリとしましたが、
  ネット情報による識別方法は、確認できませんでした。
  ただ写真で見る限り、腹部の先端がわずかに凹になっているようです。
   







06: ヨツスジハナカミキリ(カミキリムシ科)  
06 SG-0467a
2010年7月11日 筑波山・茨城

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはスズメバチ

本種は個体数も多く、花のまわりをよく飛び回っています。

 ⇒姿かたちだけでなく、飛んでるときの翅音が、
  本当にスズメバチそのもののように感じます。








07: クロトラカミキリ(カミキリムシ科) 
07 SG-0956a
2010年8月11日 田沢湖・秋田

 ➡➡➡ ベイツ型擬態(?): モデルは小さなハチかアリ

拡大写真でじっくり見てしまうと、ちょっと無理があるかもという気がしますが、
実際に花のまわりをウロウロしていると、ハチのように見えます。

 ⇒この微妙に似た雰囲気が、ベイツ型擬態の特徴でもあります。
  前述のように、隠蔽的擬態の虫たちほどほど精密に似せていなくても、
  臆病な捕食者は、騙されてしまう傾向があるのです。

  【ヒマかもしれない擬態の話《6》 ベイツ型擬態のまとまりのない話 】
     ↓   ↓   ↓









08: コブヤハズカミキリ(カミキリムシ科)
08 SG-3143a
2010年10月12日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ 保護色または隠蔽的擬態:
 
褐色系のカミキリの仲間は、枯れ枝や落ち葉の中に静止していると、
なかなか見つけることができません。
上翅の色と模様は、まさに大木の樹皮のようです。

 ⇒必然的に、私が撮ったカミキリの生態写真は、
  ほとんどが緑色の葉っぱが背景になっています。








09: シロトラカミキリ(カミキリムシ科)
09 SG-3321a
2011年5月27日 白岩森林公園・青森

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはハチ

かなり複雑な模様ですが、この黄色と黒色の配色は、
遠目に見るとやはりスズメバチに似ているのかも・・・

 ⇒逆に言うと、これだけ目立つ模様になるのは、
  学習可能な捕食者を騙す何らかの仕組みがあるはずです。







10: ツヤケシハナカミキリ(カミキリムシ科) 
10 SG-3592a
2011年6月15日 東海村・茨城

 ➡➡➡ ベイツ型擬態: モデルはホタル

本種は、上翅が赤っぽいタイプもいるようですが、写真の黒色タイプは、
肩(上翅付け根部分)のみが赤くなって、多少ともホタルに似ています。

 ⇒実際には、「カタアカベニボタル」というよく似た種類がいます。


また、もう少し赤色部分が大きいのですが、「キタベニボタル」という、
比較的稀な種類(?)もいます

【色々と不思議な虫??? キタベニボタル】
    ↓   ↓   ↓






(このまま次回に続きます)






前回のベニモントラガに続いて、通常は警戒色とされるナガメが、
静止する背景によって、典型的な保護色になるという実例を体験しました。

 ⇒もちろん、通常の保護色と呼ばれる緑色系の虫たちが、
  例えば樹皮に止まっていたり、地面に静止していたりすると、
  かなり目立ってしまうことの方を体験します。



ですから、ある生物の体色が、静止する背景によって目立つか目立たないかは、
常に起こりうる状況にはあるのですが、今回はちょっとだけビックリしました。






とりあえず、こんな状況でした。


枯れた(?)菜の花
SK-4775a
2020年7月16日 白岩森林公園・青森

春が終わって、林道わきの空き地に一株だけあった菜の花【注】が、
ほぼ茶色一色になって、沢山の種子を付けていました。

 ⇒実は、この株には、ザっと数えてみただけで、
  30匹以上のナガメの幼虫と成虫がいたのです。


もちろん、2ヶ月ほど前の緑の葉っぱと黄色の花の時期には、
この距離からでも、何匹のナガメがいるかは、すぐに分かりました。



【注】最近いわゆる菜の花が少なくなって来たように感じます。
   以下の過去記事(今年5月)で紹介したように、
   おそらくハルザキヤマガラシの可能性が高いと思います。

   【菜の花?? ハルザキヤマガラシだって!? 】
        ↓   ↓   ↓









ナガメ(カメムシ科)
SK-4773a
2020年7月16日 白岩森林公園・青森

かなり近寄って探しても、実際にはこんな感じなので、
注意深く探さないと、全てのナガメを見つけることができませんでした。

 ⇒青丸の中に、成虫と幼虫がいますが、
  春の時期ならば、こんな丸印を付けて、
  居場所を確認するようなことはしません。


良く目立つ警戒色とされるナガメが、いわゆる保護色になったのです。







ナガメ(カメムシ科)
SK-4776a
2020年7月16日 白岩森林公園・青森

さらに近づけば、明らかな警戒色となって、よく目立つような気がします。

 ⇒この辺が、ちょっとだけ不思議なところだと思います。








こんな例は、過去にもありました。


アカスジカメムシ(カメムシ科)
SH-8866a
左: 2016年9月2日 だんぶり池・青森
右: 2017年7月2日 だんぶり池・青森

典型的な警戒色のアカスジカメムシも、茶色の背景では、
かなり見つけにくくなっています。


当然ですが、上記のナガメとアカスジカメムシは、
体内に不味成分を持っている警戒色のカメムシなので、
野鳥類などの多くの捕食者が食べることはありません。

 ⇒条件によって、保護色のように見えてしまうのは、
  緑色のバッタが、地面にいるのと同じように、
  偶然の結果だと思います。









このように、全く同じものを見ても、見る側の過去の経験や印象によって、
別のものに見えてしまうこともあるはずです。




例えば以下の例は有名です。


オオトリノフンダマシ(コガネグモ科)
SH-8867a
左: 2015年8月14日 鳴子温泉・宮城
右: 2017年9月2日 だんぶり池・青森

通常は、左の写真のように、種名になっているほど鳥の糞に似ていますが、
ある条件で見ると、左のように、カマキリの顔のように見えることがあります。

 ⇒前回のベニモントラガやヒトツメカギバと全く同様に、
  鳥の糞と目玉模様が両方見えるのです。









一方で、目玉模様(眼状紋)の機能についても、微妙な問題点があります。

チョウや蛾の翅に見られる丸い模様は、大きなものが左右対称にあると、
捕食者(特に野鳥類)にとって、危険な動物の目にそっくりなので、
かなりビックリさせる効果があります。
逆に、翅の胴体から離れた周辺部分にある小さな目玉模様は、
野鳥類の最初の攻撃を、その部分に向けさせることができるとされています。

全く正反対の機能を持つ大きい目玉模様と小さい目玉模様あるのは納得できますが、
その中間サイズの目玉模様は、一体どのように考えれば良いと思いますか?



クジャクチョウ(タテハチョウ科)
SH-8865a
左: 2013年9月11日 酸ヶ湯温泉・青森
右: 2011年7月3日 白岩森林公園・青森

左の写真の目玉模様は、間違いなくビックリ効果が期待できますが、
右側の状態で、野鳥類が見つければ、最初に見え隠れするような、
目玉模様(?)を攻撃するのでしょう。

 ⇒確かに、ちょっとだけ不思議です・・・??







写真だけではうまく伝わらないかもしれませんが、同一の模様が、
見る側からの距離によって、2種類の擬態(?)になる現象を、
自分の目で確認するという、ちょっとだけ不思議な体験をしました。

 ⇒全く同じものを見ても、遠いか近いかで、
  印象がガラッと変わったのです。







とりあえず、よく見かける光景です??


SK-4770a
2020年7月17日 矢立峠・秋田

葉っぱの上に鳥の糞が・・・・??

 ⇒中央の黄色の丸の中に見えます。







一応確認するため、そっと近づくと?!


SK-4769a
2020年7月17日 矢立峠・秋田

鳥の糞ではなさそうで、左右対称の輪郭が、蛾かも・・・?!

 ⇒もし本物の鳥の糞でないなら、完全な鳥の糞擬態です。


【虫たちの生き残り戦略⑩ 非食物擬態(2)(鳥の糞擬態) 】
     ↓   ↓   ↓









間違いなく、蛾のようです!!


SK-4771a
2020年7月17日 矢立峠・秋田

鳥の糞に擬態する蛾は、予想以上に多いのですが・・・!!

 ⇒よく見かける有名なヒトツメカギバではなさそう。


【鳥の糞雄と雌とで演技中 ヒトツメカギバ 】
     ↓   ↓   ↓









これだけ近づくと、何と大きな目の恐ろし気な顔が現れました!!


ベニモントラガ(ヤガ科)
SK-4766a
2020年7月17日 矢立峠・秋田

蛾は、比較的珍しいトラガ亜科のベニモントラガのようです。

この写真で見れば、典型的なサティロス型擬態だと思います。

 ⇒逆さに静止する意味を分かっているかのよう?


【虫たちの生き残り戦略⑳ サティロス型擬態(騙す・脅す) 】
     ↓   ↓   ↓








状況が、大きく変わりました!!!


ベニモントラガ(ヤガ科)
SK-4767a
2020年7月17日 矢立峠・秋田

ベニモントラガは、人間には架空の動物のように見えますが、
野鳥類は、そんなことは無関係だと思います。


・・・ということは、
全く同じ模様なのに、おそらく信号受信者の種類や経験などによって、
見え方が全く異なることが予想されます。

特に野鳥類が獲物を探している状況を考えてみると、
通常は、無視すべき非食物擬態(糞擬態)になったり、、
見つけた瞬間に、ドキッとさせるようなサティロス型擬態になったり、
対象物の距離によって、見える印象が全く変化してしまうのです。




しかし、このように見え方が急激に変化することは、
獲物を探索中の捕食者に対して、全く異なる印象を与えることになり、
まさに、理にかなった2種類の擬態と言えるのかもしれません。

このときの、捕食者の探索行動はこんなイメージだと思います。

 ① 遠方にある食べられそうな虫を発見します。
 ② すぐに、食べられない鳥の糞であると判断します。
 ③ 判断できない場合は、近づいて確認します。
 ④ このとき、過去に嫌な経験をした動物の顔が突然現れます。
 ⑤ おそらくビックリして、その場から離れると思います。



ここまで書いてから、あることに気づきました。

実は、前出の有名なヒトツメカギバにも、全く現象が見られたのです。


ヒトツメカギバ(カギバガ科)
SG-2569a
2011年9月8日 白岩森林公園・青森

遠くから見ると、まさに鳥の糞です。

 ⇒左右対称の蛾の輪郭が消されて、
  典型的な交尾擬態になっています。







ヒトツメカギバ(カギバガ科)
SK-2525a
2019年7月10日 白岩森林公園・青森

近づいてみると、左右対称の2個の目玉模様が強調されて、
まるで、動物の顔のように見えるのです。

 ⇒ちょっとだけ「やさしい目」をしていますが・・・


でも、サティロス型擬態の場合は、そんなことは無関係です。

【ヒマなときこそ擬態の話《7》 サティロス型擬態の信じられない話 】
     ↓   ↓   ↓






・・・というわけで、

まるで忍者のようなベニモントラガ君と、ヒトツメカギバ君、

同じ翅の模様が、見る側からの距離によって、
全く逆の反応を起こさせるという画期的な(?)仕組みを、
さりげなく進化させてきたのかもしれません。

こんな例は、まだまだ沢山あるはずです。






子供のころ、トンボやセミを捕まえようとして、そっと近づいても、
網を振る直前に、逃げられてしまった経験は、誰にでも(?)あると思います。

大人になった今でも、虫たちを見つけて、写真を撮ろうとカメラを向けると、
絶妙のタイミングで逃げられてしまうことを、1日に何回となく経験します。

このようなことは、虫たちからすれば当然の反応で、捕食者が攻撃態勢に入る前に、
その気配を察知して、現場から飛び去ることは、最も簡単な防御手段となるからです。



例えば、最近の出来事ですが、こんな写真は比較的簡単に撮れます。

セマダラハバチの仲間(ハバチ科)
SK-4755a
2020年7月10日 だんぶり池・青森




セマダラハバチの仲間(ハバチ科)
SK-4756a
2020年7月10日 だんぶり池・青森


一方で、多くの虫たち(ゾウムシ、ハムシ、コガネムシ、コメツキ、カミキリなど)は、
少なくとも我々人間が近づいただけで、逃げるのではなく、瞬間的に落下します。
  
 ⇒一体なぜ、このような多くの虫たち(甲虫類)は、
  翅があるので、飛んで逃げることができるはずなのに、
  危険な地上徘徊性の捕食者が沢山いるような地面に、
  そのまま落下するのでしょうか?




まずは、今年(2020)の春に撮った4枚の写真からご覧ください。

ヨコヤマトラカミキリ(カミキリムシ科)
SK-4380a
2020年5月23日 座頭石・青森





タマゴゾウムシ(ゾウムシ科)
SK-4333a
2020年5月24日 矢立峠・青森





アトボシハムシ(ハムシ科)
SK-4422a
2020年5月31日 座頭石・青森





シラホシカミキリ(カミキリムシ科)
SK-4713a
2020年6月30日 座頭石・青森



この4枚の写真には、ある共通点があります。それは何でしょうか?

この流れの中では、ほとんどの人が正解だと思いますが、写真の虫はいずれも、
シャッターを押した直後に、地面に落下して、再発見できなかったのです。

 ⇒4種とも、出会う頻度が少ない虫たちなので、
  (特に最初のヨコヤマトラカミキリは有名な珍品です)
  もっと写真を撮っておきたかったのに!?





このような地面に落下するという逃避方法は、予想以上に防御効果があります。

一度地面や落ち葉の中に落ちてしまった虫たちを、もう一度探し出すことは、
まず不可能であることを、昆虫採集する人なら、だれでも経験してると思います。

  【虫たちの生き残り戦略⑭ 逃げる・落下する 】
     ↓   ↓   ↓


 【虫たちの生き残り戦略⑮ 捕食者を欺く(1) 死んだふりをする 】
     ↓   ↓   ↓

 ⇒何故飛んで逃げるのではなく、危険な地面に落下するのか、
  考えてみればちょっとだけ不思議なことだと思います。
  (記事最後に、ゾウムシの死んだふりの写真を載せました)



さりげなく観察すると、落下する虫たちは飛び立つ瞬間がヘタクソです。

素早く飛び立つことができるハエやトンボに比べて、特に甲虫類の多くは、 
硬い前翅の下の後翅でしか飛ぶことができないので、簡単には飛び立てません。

 ⇒まず、硬い前翅を開いて、その後で飛ぶための後翅を開きます。
  こんな長い(?)準備期間が必要なハムシやカミキリ、コメツキは、
  落下する方がよっぽど早く捕食者の視界から消えることができるのです。
  (記事最後に、コメツキの悠長な飛び立ち場面の写真を載せました)



余談ですが、賢い昆虫マニアは、その虫たちの行動を逆手にとります。
枝の下に、白い布を置いて、その枝を軽く棒でたたくと、
その枝にいた虫たちが、布の上に、簡単に落ちてくるからです。

布に落ちた虫は、すぐには飛び立ないので、
目的の虫を、簡単に採集することができます。

これを、昆虫マニアは、「ビーティング採集法」と呼びます。

  ビーティング採集法
 SG-1103a
 1991年8月9日 大山・鳥取

 次女は生意気にも、幼稚園の頃からこんなことをやってました。
 多少ぎこちない雰囲気がありますが・・・


 






・・・と、ここで話が終わってしまったら、記事タイトルの【再考?】にはなりません。


虫たちは、風にそよぐ葉っぱや小枝が揺れ動く場合と、少なくとも私が、
枝や葉っぱに触ったり、そっと手前に引き寄せたりする場合を明確に区別して、
地面に落下しているのです。

 ⇒私も学習して、風のように自然に、ゆっくりと枝を手前に動かしたりすると、
  虫たちも、風の動きと間違えて(?)落下しない場合も、たまにあります。

どのように、虫たちはこの動きの違いを識別しているのでしょうか?



虫たちが異変を感じるような振動を、(人間以外に)葉っぱや枝に与えるのは、
野鳥類である可能性がかなり高いような気がします。

多くの野鳥類は、餌(虫たち!)を探すときには、横向きの枝に止まって、
そこから見える範囲にある適当なサイズの餌を探します。

その餌にそっと近づく場合に、特に枝から(別の)枝への移動の場合に、
カエルやトカゲ類のように、ユックリと注意深く移動することはできない野鳥類は、
2本足を同時に跳ねるようにピュンピュンと移動するので、どうしても、
何らかの振動を、ターゲットのいる小枝に与えてしまうのです。

 ⇒その振動を察知した虫たちは、空中に飛んで逃げれば、
  野鳥類の格好の餌食になってしまいます。

 ⇒ここは、地面に落下するしか手はありません。




もちろん、学習可能な虫たちは、そんなことは既に分かっています。

だから、枝に止まって餌を探す野鳥類は、最初から地面に落下するような、
ハムシやゾウムシ、コメツキ、カミキリなどを見つけても、過去の経験から、
近づくとどうなるかは分かっているので(?)、最初から無視するのです。

ターゲットは、落下しないことが分かっているイモムシやクモ、カメムシなどです。



・・・ということは、
野鳥類は、「落下する虫」と「落下しない虫」を、捕獲する前の近づく段階で、
明確に識別していることになるのです。

身体が柔らかく、簡単に捕獲出来て、ヒナの餌としても好適なイモムシと、
身体が硬い外骨格に覆われて、すぐに落下してしまうハムシやゾウムシとは、
餌としての好適さがまるで違うのです。


両タイプの虫たちを、一度でも経験すれば、見た目ですぐに識別することができます。

もし仮に、そのような甲虫類が似たような姿かたちや色彩であればあるほど、
そのことを学習して、見つけた段階から、攻撃することはないのです。

 ⇒おそらく多くの野鳥類は、ハムシやゾウムシ、コメツキなどを、
  好適な餌として見ることはなく、最初から無視するので、
  もしかしたら、それぞれゾウムシ体型コメツキ体型などを学習して、
  ミュラー型擬態のような状況になっている可能性だってあるのかも・・・

もちろんこの場合は、すぐに落下したり、硬かったりすることだけで、
餌としての価値が低い(探索コストに見合わない?)とみなされています。

 ⇒例えばハムシの仲間は、体内に不味成分を待っているので、
  野鳥類が攻撃しないこともよく知られている事実です。


とは言え、そんな甲虫類を、野鳥類が(全く!!)食べないわけではありません。

昔、カメムシが放出する匂いの防御効果がどの程度か知るために、
いくつかの文献(野鳥類の胃の内容物リスト)を調べましたが、かなりの頻度で、
甲虫類も見つかっています・・・もちろん、ヒナに与える餌ではありませんが!

 ⇒だから、いつもの逃げ道ではありませんが、
  捕食者に対する絶対的な防御手段はあり得ないのです。


一方、移動するときに枝に振動を与えないような捕食者、例えばトカゲ類やカエル、
カマキリなどの比較的軽量な捕食者が、別の枝から飛び移ってきたとしても、
多少とも小枝に与える振動が、危険を察知させるほどではない可能性もありますが、
このことについても、さすがの虫たちの能力は予想のの斜め上を行くのです。

 ⇒例えば、ウンカ・ヨコバイ類の配偶行動は、
  腹部を植物体に打ち付ける微妙な振動で行いますが、
  彼らは十分にその振動を感知出来るのです。
  もちろんその振動の周波数(?)で、種の識別さえもしています。

飛んで逃げることなく、瞬間的に地面に落下する虫たちは、植物体に伝わる振動を、
我々が予想する以上に敏感に察知する能力があるのかもしれません。

そうかといって、風で葉っぱがこすれるような振動で、簡単に落下していたのでは、
もう一度上がってくる運動量や地面での危険性を考えると、微妙です。


その違いを認識できる識別能力こそが、「ちょっとだけ不思議な虫たちの世界」なのだと思います。


以下、既出写真です。


ヒゲコメツキ(コメツキムシ科)
SH-7006a
2017年6月17日 矢立峠・秋田

飛び立つまでに結構な時間を要するコメツキ




ヒメシロコブゾウムシ(ゾウムシ科)
SG-2142a
2012年6月19日 白岩森林公園・青森

じめに落下して死んだふりをするゾウムシ

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