【1440】
このブログを始めた頃は、擬態する虫たちの写真を撮りまくっていましたが、
なかなか出会うことが出来なかったのが、ハイイロセダカモクメ幼虫【注】でした。
当時は、9月から10月の中旬まで、林道わきや雑草地ヨモギ花穂を、
かなりの時間を使って探しまわっていた記憶があります。
⇒それ以来、ハイイロセダカモクメ幼虫に関する記事は、
このブログに、多分10回以上登場しているはずです。
このシリーズのジャンルは日記なので、全くの個人的な感想ですが、
ハイイロセダカモクメ幼虫とムラサキシャチホコ成虫の擬態の完成度は、
日本産昆虫の中で、東西の横綱クラスであると思っています。
今回の「記憶に残る虫」は、ミラクル擬態のハイイロセダカモクメ幼虫です。
ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)
2012年10月8日 だんぶり池・青森
そんなハイイロセダカモクメ幼虫に出会うためには、いつものように、
ブラブラ林道を歩いていては、絶対に見つかりません。
⇒とりあえず、ヨモギの花穂を見つけたら、
立ち止まってじっくりと探すのです。
やっとのことで、ヨモギの花穂の中に紛れ込むハイイロセダカモクメ幼虫を、
自分の目で見つけたときの感動は、今でもはっきり覚えています。
⇒そのときの第一印象は「何でそこまで似せなきゃならないの?」でした。
ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)
2012年10月10日 白岩森林公園・青森
この写真は、ヨモギの花穂を手で掴んで、手前に引き寄せてから撮ったので、
10年以上パソコンのフォルダーの中に眠っていたものです。
⇒他のイモムシにもよく見られるように、頭部を持ち上げて、、
外敵を威嚇するような通常では見られない行動だったから、
記事にするのをためらっていたのです。
それでも、背景に溶け込む「隠蔽的擬態」の雰囲気の方が強く出ています。
当然のことですが、ミラクル擬態の対象は、視覚で獲物を探す野鳥類です。
なので、野鳥類以外の(全体を見渡すことができない)捕食者に対しては、
おそらく、この擬態はほとんど防御効果を発揮することはないのです。
次の写真が、それを示す記憶に残る一瞬です。
ハイイロセダカモクメ幼虫: 衝撃の瞬間
2011年10月4日 だんぶり池・青森
そっと近づいてきたクチブトカメムシには、犠牲者の全体像は見えず、
普通のイモムシのお尻にしか見えていなかったのです。
⇒ゆっくりゆっくりと至近距離まで近づいて、
そっと(?)口吻を突き刺したとき、
ハイイロセダカモクメ幼虫は、一瞬頭部を上に曲げました。
ハイイロセダカモクメ幼虫(ヤガ科)
2011年10月4日 だんぶり池・青森
そして10分程度で、幼虫の体は植物から離れ、下に垂れ下がっていました。
クチブトカメムシには、ミラクル擬態の効果は全く認められなかったのです。
⇒おそらく、カマキリやハエトリグモに対しても、
防御効果は、ほとんどないのかもしれません。
捕獲の瞬間の詳細は、以下の過去記事をご覧ください。
【ハイイロセダカモクメ幼虫 衝撃の瞬間】
↓ ↓ ↓
以前、カメムシの匂いの防御効果のところで述べたように、
全ての捕食者に有効な防御手段は、あり得ないのです。
【注】ハイイロセダカモクメは、蛹で越冬する。
蛹で越冬する昆虫類の多くは、春に成虫になって、
幼虫が新緑の柔らかい葉っぱを食べて育つ。
ところが、ハイイロセダカモクメは、
そのような食べ物が豊富な時期も、蛹のままで過ごして、
何故か、夏の終わりに成虫になるのである。
もちろん、この時期には、新鮮な葉っぱはない。
幼虫は、周囲に沢山ある柔らかいヨモギの花穂を餌とするのだ。
しかし、ひとつ大きな問題が出てくる。
ヨモギの花穂は、葉っぱと違って、隠れるところが少ない。
しかも、花穂を食べてしまうと、ますます、
隠れるところがなくなってしまう。
そんな中で、彼らは鳥に捕食されないように、
あっと驚くミラクル擬態を完成させたのだ。
何と、彼らは、食べてなくなったもの(花穂)そっくりなのである。
その擬態の完成度たるや、少なくとも我々人間が、
必死になってヨモギの花穂を探さなければ、
決して見つけることができないほどの「ミラクル擬態」と言える。
そして、これだけの努力をしたのだから、
鳥類の餌となる機会は、かなり減ったに違いないのだが・・・